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Posted by だてBLOG運営事務局 at

2011年07月08日

痩せるのも命の危険もお墨付きのタイ製のやせ薬

しばらく前からネット上で話題になっていた「ホスピタルダイエット」、派手な画像を使って日本語のホームページでも販売されていた。

その内容物の危険性に対しては以前から厚生労働省が警告を出していたものの、痩せたい一念で個人輸入をする人々が厚生労働省のホームページなんてわざわざ開くわけもない。

(たまたま開いてみても危険性が理解しづらいのが事実だし。)

ただ単に「ホスピタルダイエットで本当に痩せた!」という使用者の記事だけを探して、これを飲んだら痩せれるんだ、と、自分に言い聞かせるばかりではないだろうか?


うん、ホスピタルダイエットの一つの成分(シブトラミン)を使えばどうやら確かに痩せることはできるようだ。

(実際にアメリカではBMI32以上の肥満者の痩せに有効であるということで市販が承認されている。)

でも、日本の医療機関であれば、シブトラミンと組み合わせて飲ませることのありえないような別の薬剤も最初から混ぜ込まれているのがこのタイ製の薬の怖いところだ。



タイ製やせ薬で健康被害多発 厚労省が注意喚起

産経新聞 7月7日(木)21時3分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110707-00000611-san-soci

 「MDクリニックダイエット」などの名前で個人輸入されているタイ製のやせ薬について、厚生労働省は7日、健康被害が多数発生しているとして、都道府県に対し、消費者へ注意喚起を行うよう通知した。

 厚労省や東京都によると、今年4月、個人輸入した「MD-」を服用していた都内の20代の女性が薬物中毒で死亡。女性は通院歴があり、「MD-」服用以前から、医療機関で処方された睡眠導入剤や抗鬱剤などを服用していたが、「MD-」と死亡との因果関係も完全には否定できないという。

 「MD-」は「ホスピタルダイエット」などとも呼ばれ、平成14年以降、今回の事例を含め、死亡例4例を含む計15例の健康被害(疑い例含む)が公表されている。女性が服用していた「MD-」は計6種類の錠剤やカプセルで、国内で未承認の医薬品成分である「シブトラミン」(食欲抑制作用)や「フルオキセチン」(抗鬱作用)も検出された。

 厚労省は「健康被害が疑われる場合は、速やかに医療機関で受診するとともに、最寄りの保健所に申し出てほしい」としている。


上の記事をもう一度よく読んでほしい。

平成14年以降、わかっているだけで4名の死亡者が出ているし、それ以外にも10件以上の健康被害が報告されている。

やせ薬を飲んでいることを公表する人はあまりいないことを考えると、これはごくごく氷山の一角の被害者なんじゃないかと思う。


MDクリニックダイエット、あるいはホスピタルダイエットは、組み合わせを基本的に避けるように言われている薬物(シブトラミンとフルオキセチン)を混ぜ合わせた薬物。

「痩せるけど、命に関わる副作用がある、日本では認可されていない薬物」

であることを忘れないでいただきたい。


含まれている薬物についての説明は以下の通り(Wikipediaを拝借、改変)

安全性に関する記述


シブトラミン(Sibutramine。ジブトラミンとも。販売名MeridiaR(メリディア)、ReductilR(リダクティル))は、いわゆる痩せ薬の一

その薬理作用の関係で、モノアミン酸化酵素阻害薬のような、セロトニンの分解を阻害する薬物との併用は禁忌である。
また、本薬はSNRIであること踏まえると、SSRIなどの神経細胞のセロトニンを再取り込みを阻害する薬物や、SNRIとの併用も警戒を要する。
したがって、うつ病のような、これら薬物の投与を受けている可能性がある疾患を抱えている人は、医師に相談した上で使用の可否を考える必要がある。
なお、Meridiaの製造販売元であるアボット・ラボラトリーズ社は、本薬の添付文書において、摂食障害の人や他の中枢神経に作用する痩せ薬(フェンフルラミンやリモナバンなど)、モノアミン酸化酵素阻害薬との併用は禁忌である旨記述している。
日本においてはエーザイにより2007年11月29日に医薬品製造販売承認申請されたが、2009年9月26日に却下された。
Wikipedia


フルオキセチン (Fluoxetine) はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の1つである。

塩酸塩(Fluoxetine HCl)は、商品名プロザックR (ProzacR) としてアメリカのイーライリリー・アンド・カンパニー社からカプセル剤が発売されている。
主として、うつ病、依存症、摂食障害等に有効とされている。
塩酸フルオキセチンは、月経前症候群にも有効なことから商品名:「Sarafem」として販売されている。
なお、本剤は日本では未承認であり販売されていない。
Wikipedia

シブトラミンはまた、緑内障患者も禁忌である。さらに、シブトラミンの投与による高血圧、肺高血圧や心拍数上昇が発現することも注意喚起されており、循環器系に係わる基礎疾患を有する人は、服用前に医師に相談するのが望ましい。
  


2011年05月07日

食肉卸業者と焼き肉チェーン店、そして厚生労働省の責任

前の二つの記事に続いて再々の話題になるけれども、病原性大腸菌O111による食中毒の話題。

O111にしてもO157にしても感染力が強いので、ごく少量の菌を食べてしまっても感染しうる。

引き起こされるのは腸管出血、それのみならず溶血性尿毒症症候群という致死的な疾患。

でも、細菌が腸管内で繁殖すること、あるいは産生されたタンパク毒素を大量に摂取して発症することを考えると、汚染された食物であっても十分に加熱調理して食べれば問題ないわけだ。

問題は、加熱調理しないユッケの感染対策をないがしろにして客に提供したことだ。

以下はYahoo!のニュースから

生食用と知りながら、加熱用と同じ包丁使い回し

読売新聞 5月7日(土)14時33分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110507-00000425-yom-soci

 焼き肉チェーン「焼肉酒家えびす」の客4人が腸管出血性大腸菌「O(オー)111」などで死亡した集団食中毒事件で、肉を納入した「大和屋商店」(東京・板橋区)が生食用として提供されると知りながら加熱用の肉と同じ作業場で加工し、まな板や包丁を使い回していたことが、板橋区保健所などへの取材でわかった。

 厚生労働省の衛生基準では、生食用の肉の加工は加熱用と明確に分け、専用まな板や包丁などを使用するとしている。

 また、富山、福井、神奈川の3県警と警視庁は7日、合同捜査本部を設置した。

 板橋区保健所によると、4月28、30日、大和屋に立ち入り調査したところ、作業場で牛肉は、生食用も加熱用も同じ加工台で処理されていた。大和屋は保健所に「加熱用の肉しか扱っていない」と説明していた。

ここまでYahoo!ニュース


最終的に客に提供した焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」の衛生概念の不足はまちがいない。

生食で肉を提供する場合には調理の段階で表面を削り落すなどの加工が必要であるとされていることを、知らなかったわけではない。

加工業者にその処理をしてもらっているからうちでやる必要はない、というのは「経営効率重視の安全軽視の典型」としか思えない。


食肉を卸販売していた「大和屋商店」(東京・板橋区)の罪も重い。(もっとも重いかもしれない)

生食用として提供されると知りながら、加熱用の肉と加工場も道具も変えていない、そのまま生で食べたら食中毒を起こす危険性があるとわかっていながら作業を進め、それを焼き肉屋に「生食向け」と口頭で伝えて販売していた。

その一方で保健所には「生食肉」の調理をしているとは届け出ていない。


そして監督官庁の厚生労働省。

生肉を食べることの危険性の周知徹底と管理責任をどうするかということをうやむやにして放置してきたと言われてもしょうがない。

かつて、焼き肉が長年にわたって肉を取り扱ってきた業者の間でのみ販売される特殊な食べ物であったうちは良かった(みんなが知っているような老舗の焼き肉屋でO111やO157に集団感染したなんて話は聞いた記憶がない。)。

でも、規制緩和で新たな人々が参入してきたことで「知識も責任感も不十分な素人の」経営者が焼き肉屋運営に参戦してきてしまったわけである。


そこに「安くてうまいものを提供する店もあってあたりまえ」という我々消費者のモンスターニーズ。

ただし、消費者には知識と責任は前の三者ほどには求められるべきではない。


結局は全てを統括する厚生労働省がきちんと規制をかけるべきだったのだ。

肉の生食販売はふぐ料理と同等のライセンスや罰則を設けて許可するようにすべき、そうしないとこの悲劇はなくならないだろう。


ということで、お店で生食はライセンス後に再開、それまで凍結でいいんじゃないかと思う。

  


Posted by norihiro at 21:16Comments(0)感染症

2011年05月04日

生食用の牛肉は流通していないという前提を知らなかった。

焼き肉チェーン店で提供された生肉料理のユッケを食べて大勢の客が腸管出血性大腸菌O111あるいはO157に感染してしまい、溶血性尿毒症症候群で重症となって入院治療を受けるものが数十名、そのうち子供二人が死亡した事件。

この事件は被害者の悲惨さもさることながら、日本の食の安全に対する考え方をもう一度根底から考えなおさせる事件になっていると思う。

もちろん、この焼き肉チェーン店に一義的な責任はあるのだが、「牛肉の生食に対する行政管理の問題」というものも避けて通れない。

完全な管理をするには大変なコストがかかるので、あえて店側の責任として安全管理を任せていたのが食肉流通の監督官庁の態度だったのだと思うけれども、それは店側に十分な知識と対応する能力があると言う「常識的に言って大丈夫だろう」というだろう運転的な部分があることが否めない。


*****ニュースの引用*****

焼肉チェーン店社長「認識の甘さと弱さ」

TBS系(JNN) 5月4日(水)0時20分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20110504-00000003-jnn-soci

 3日、フーズ・フォーラスの勘坂社長は憔悴した様子で質問に答えました。

 「お客さまの命に関わる食の安心と安全を最重要視して、もっと取り組んでおくことに対しての認識の甘さと弱さがあったことに反省と後悔をしております」(勘坂康弘社長)

 「食中毒、そして死者を出した。取り返しのつかないことをしました。本当に申し訳ございません」(勘坂康弘社長〔2日〕)

 焼肉チェーン店「焼肉酒屋えびす」の富山県と福井県の2つの店舗で、生肉のユッケを食べた10歳未満の男の子2人が死亡した食中毒事件。2人からは腸管出血性大腸菌「O111」が検出されました。

 警察は業務上過失致死の疑いで捜査を開始、3日、勘坂社長から任意で事情を聴きました。

 さらに、横浜店でも先月、ユッケを食べた19歳の女性が重い食中毒症状を起こし、入院していたことがわかりました。3日、新たに神奈川県内の系列店で食事をした6人が体調不良を訴えていることがわかりました。このうち、横浜市内でユッケを食べた19歳の女性は重症の食中毒症状を起こし、入院しているといいます。

 この女性が食事をしたという店舗の従業員が、実情を語りました。
 「衛生管理はちゃんとやっていた。(富山県で男の子が死亡した後)こちらの認識も甘かったのではと、きちんと細かくやろうということになった」(「焼肉酒家えびす」の従業員)

*****ニュースの引用ここまで*****


ここまでのニュースでよくわかるのが、店側の知識のなさだ。

腸管出血性大腸菌O111あるいはO157は、牛ではたいした症状も出ないことが多いことから、牛の腸内細菌としていくらでも常在しうる病原性細菌だ。

しかし、食肉加工の際に内臓を傷つけない、肛門付近を注意するなど、糞便からの汚染に気をつければ肉の汚染もおこらない。

でも、すでに感染事故は富山で起こっていたのである。

これは、この店が仕入れている肉が大元から汚染していたことを意味する。


店員、あるいは管理者に問いたい。

O111やO157が100個程度の細菌数で食中毒を起こす細菌だとわかっていたのか?

チェーン店で扱っている以上、大元の肉が汚染されていた可能性が高いということを理解していたのか?

そうではなくて、温度管理や冷凍された肉を迅速に調理して出せば大丈夫と思ってなかったか?

普通の食中毒予防の対処でよいと、勝手に思い込んでいたのではないか?

上の焼き肉屋の「衛生管理はちゃんとやっていた」という発言を見ると、それらのことを知らなかったとしか思えないのだ。

生食の牛肉料理を販売して食べさせる店の従業員であれば、当然のように把握しておくべきO111やO157汚染と感染に関する知識。

これは、監督官庁が生食の牛肉料理の販売を容認する以上、営業者・調理者に周知徹底すべき知識ではなかったのか?


****再びニュース引用****

 一連の食中毒事件の患者は、疑い例も含めすでに富山、福井、神奈川の3県で63人に達しました。

 「私たちは、生食用の肉を使用していません。厚労省の発表によると、流通しておりませんので、日本中、全ての焼き肉店において生食用の肉は販売しておりません。これが事実であります」(勘坂康弘社長〔2日〕)

 店で提供したユッケの肉は「加熱用」であったと話しますが、厚労省によりますと、現在、牛肉は生で食べるための肉として流通しているものはありません。つまり生で食べる肉を提供する際は、加熱用の肉を飲食店の責任で処理して提供しているのが実態です。

 横浜市の担当者は、「焼肉酒屋えびすはインターネットで卸売業者を募集していて、業者との信頼関係ができていなかったのではないか」と話しています。

 「今回、被害者をお見舞いして、改めて引き起こしたことの重大さ、そして、私どもが何としてでも被害者様をバックアップしていかなければと強く受け止めております」(勘坂康弘社長)

****ニュース引用ここまで****


報道を見る限り、この社長が意図的に衛生管理に手を抜いたわけではなさそうだ。

すごく真剣に正直に謝っていて、どこかの電力会社の関係者と違って正直な人みたいだ。

でも、それだけに横浜や藤沢で再び事故を起こしているのが哀しい。


牛肉の生肉を食べることによる感染予防の責任は事業者に投げられていたのである。

腸管出血性大腸菌による感染症についての知識がチェーン店すべての従業員に備わっていれば、神奈川の食中毒はぜったいに起こらなかったはずの事故である。

ということは店側に知識が備わってなかったとしか思えない。


ユッケ好きとしては非常に残念な話であるけれども、今後、ユッケやタルタルステーキが食べられなくなる事態にしばらく陥ったとしても、監督官庁による徹底指導、少なくとも「腸管出血性大腸菌」などの病原性細菌に関する知識を食肉販売業者に周知徹底するべきだ。

周知しない限り、それが確認できないかぎり、牛肉の生食販売を認めてはいけないのではないかと思う。

大仰かもしれないが、フグの販売と同等の規制、あってもいいのではないだろうか、残念だが、哀しい事故を防ぐには今の段階ではそれしか思いつかない。
  


Posted by norihiro at 15:54Comments(0)感染症

2011年04月30日

溶血性尿毒症症候群(HUS)発症は防げないのか?

富山県の焼き肉店でユッケなどを食べた大勢が食中毒で苦しみ、10歳の子供に至っては溶血性尿毒症症候群で死んでしまった。

男の子は父親と二人で焼き肉店に来て食事していたそうです。

とても楽しい食事だったでしょうね、父親も少年も二人とも。それなのに。

私もよく息子たちと男ばっかりで焼肉屋に行っていましたので、すごく悲しい、胸が締め付けられるような想いになりました。


食中毒で男児死亡=焼き肉店食事の24人発症―富山

時事通信 4月29日(金)22時30分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110429-00000116-jij-soci

 富山県は29日、同県砺波市の焼き肉店で食事をした24人が下痢や発熱の食中毒症状を訴え、うち溶血性尿毒症症候群(HUS)の疑いで入院していた10 歳未満の男児1人が死亡したと発表した。男児からは腸管出血性大腸菌O(オー)111が検出された。ほか23人のうち5人が重症。
 県によると、24人は21~23日、砺波市の焼き肉店「焼肉酒家えびす砺波店」で、ユッケを食べたという。死亡した男児は21日夜、父親と2人で同店で飲食。24日に嘔吐(おうと)や下痢と発熱、血便などの症状を訴え入院し、29日午前に死亡した。
 食中毒症状を起こした24人のうち14人からO111やO157が検出された。
 県は27日、同店に3日間の営業停止を命令。同店など系列20店が営業を自粛しているという。
 同店を経営するフーズ・フォーラス(金沢市)の勘坂康弘社長は29日夜、記者会見し、「申し訳ない思いでいっぱい。取り返しのつかないことだが、できることは最大限やらせていただく」と話した。 


O157やO111による重篤な疾患、溶血性尿毒症症候群は日本でよりも肉食文化のアメリカなどでしばしば食中毒事故を起こす細菌です。

怖いのは感染力、というか、感染した後の発症力が非常に強いということ。

100個の細菌を食べてしまえば発症すると言われていますから、感染している動物の生肉や、汚染している食材や調理器具を使った料理を食べれば高確率で発症します。


でもね、大腸菌ですし、これが作るベロ毒素もタンパク毒なので、肉を十分に加熱すれば発症する可能性はほとんどなくなります。

もしも残存した毒素にやられても症状はそれほどひどくならないはずです。

だから十分に加熱した肉料理を食べる場合は、これらの細菌にやられる危険性は少ないのです。

(汚染した生肉を自分の箸で拾って焼いてそのまま食べる場合、箸に付いている分だけで発症します。)


ですが、ユッケとかタルタルステーキなどの生肉を食べることが基本の場合はどうしようもないですね。

レアステーキも汚染していたら、まずアウトです。

日本よりも欧米のレアで牛肉を食べることの多い人たちの間では、なかなか縁の切れない手ごわい相手で、自分の家で食べるときには十分加熱するのが原則です。

でも、お店で食べる物の危険性は予測しようがないよね。


お店の場合、最大の危険は、調理者やその周囲の人が不顕性の感染者、保菌者になってしまっていた場合です。

今回はどう言う原因なのか、感染源はどこかわからないけれども、ほんと、アンラッキーとしか言いようがないです。



その後、報道を読んでみると、生食用の牛肉というのは正式に認められて流通しているわけではないそうですね。

生産者というよりも調理者の管理にゆだねられているようです。

生肉の美味しさを知ってしまうとユッケもタルタルステーキも魅惑の食べ物なのですが、子供や老人、体力のなさそうなダイエットしてカリカリの若い女性なんかに食べさせるのは考えもののメニューだったんですね・・・。  


Posted by norihiro at 14:43Comments(0)感染症

2011年04月06日

短期被曝と長期被曝の違い

福島原発が津波で冷却系がやられてスタックしてから、つまり東日本大震災からもうすぐ4週間が経とうとしています。

最初は放射線濃度の低さをみて、それで大騒ぎする人たちに冷静に慣れ、騒ぐような濃度じゃないと何度もたしなめていたのですが、だんだん、ちょっと、背筋が寒くなってきました。

残念ながら、原子炉の中の燃料棒は今も露出したままの様ですよね。

その状態が継続すると表面が溶けて滴り落ちて行きます。

それが炉の底の方にだんだんたまっていくと、あまりよろしいことではないです。


東海村の臨界事故、あれはバケツの中で一気にウランをまとめてしまったがために発生した臨界(核分裂の開始)です。

燃料棒が溶け続ければ炉の底にどんどんたまってしまって、あれと同じこと、起こってもおかしくないようです。

そうなると、強力なエネルギーを持った中性子も出てくるし、ウラン238が猛毒のプルトニウム239になって・・・

ってここのところはあまり詳しくないのでこの辺で。


でもともかく、制御不能な核分裂反応が起こったりしたらさらに大量の放射性物質が飛び散ります。

そして、それの制御にはさらなる危険な作業と、長い作業時間が必要です。

原発トラブル収拾にあたっている作業員の皆さんの被曝量を考えると空恐ろしくなります。

現在働いている人たちは遠からず被曝のリミットに達するでしょうから、どんどんベテランが現場から撤退して行くことになります。


では、非難範囲の外にいる我々はどうかというと、これはそれほどの危険な状況が訪れるとは私は考えていません。

というのも、原発作業員の皆さんは短時間で強い放射能を浴びるかもしれないのに対して、我々は弱い放射能を長い時間をかけて浴びるだけだからです。


放射性物質に被曝することで怖いのはDNAに傷がついてしまうことですね、これが将来、癌を生み出す素地になる可能性があります。

(癌になるような場所に傷がついてしまった場合に限ります。)

でも、我々の身体には、傷ついたDNAを修復する能力がそなわっています。

傷が小さかったり少なかったりすると、毎日すぐに修復することができます。

だから弱い放射線を浴び続けても、例えば毎日1mSvを浴びて一年で365mSvを浴びても、癌になる危険性は余り上がらない(と考えられている)のです。

(安全マージンを見た値は年間50mSv以下ですけどね。)


これに対して、一日で365mSvを浴びたりすると、いっぺんに傷つく場所が多すぎて、修復しきれないので、確実に発がんリスクが上昇します。

(広島と長崎の推測から200mSv以上の被曝を短期に受けると発がんリスクが上昇すると考えられています)

被曝は単純な足し算ではないのですね。

だから長期被曝した場合の放射線量を単純に短期被曝で浴びた放射線量で考えて戦々恐々とするのは馬鹿げているのです。


まあ、何をどう考えてみてもいやなものはいやですけどね。

もう一つ言えば、原発事故による長期被曝の影響に関してはチェルノブイリ事故を基にいろいろ推測されているわけですが、あの場合と今回の福島の場合、それぞれ放出される放射線や飛散する放射性物質の割合や時間など、被曝のタイプが異なります。

ですから、今回の長期被曝の影響は20年後にようやくわかるものでしかないとも言えます。
  


Posted by norihiro at 23:24Comments(0)原発事故と放射線

2011年01月20日

タミフル投与患者8%に耐性ウイルス出現!

耐性ウイルスの出現を抑えるために、ではどうすべきか?
危惧されていた問題が忘れ去られていた感がありましたが、出てきましたね。


2008年に出現したH1N1ソ連型のタミフル耐性ウイルスは北欧で出現して世界中に広がりました。

そのころすでにタミフル使いまくり大国だった日本から最初に出るだろうと思われていたところにそんな展開だったので、何だ、タミフル使っても使わなくても結局出るんじゃん、つかってやれ。

そう思う医療関係者もいたかもしれません。

でも、よ~く調べてみたらやっぱり変異ウイルスの出現率は上がっていたんですね、タミフルを使う人では。


<タミフル>投与患者8%に耐性ウイルス 東大など調査

毎日新聞 1月20日(木)6時1分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110120-00000014-mai-soci

 インフルエンザ治療薬「タミフル」を投与した患者のうち約8%で耐性ウイルスが現れていることが、東京大医科学研究所などの調査で明らかになった。タミフルが他の治療薬と比べ、臨床現場での治療により耐性ウイルスを出しやすいことが分かったのは初めて。19日、感染症の米専門誌電子版に発表した。【関東晋慈】

 河岡義裕・同研究所教授(ウイルス学)らの研究チームは05~09年の過去4シーズン、けいゆう病院(横浜市)でタミフルと治療薬「リレンザ」を投与した患者各72人計144人を調べた。その結果、タミフルで治療した患者6人から耐性ウイルスが確認されたが、リレンザで治療した患者からは現れなかった。

 患者はいずれもタミフルの投与で回復したが、体内でインフルエンザウイルスが増殖する過程で一部が耐性を獲得した可能性があるという。こうした耐性ウイルスは増殖力が比較的弱いとされ、これまで治療が原因による感染拡大は起きていない。だが、感染力や増殖力が強まれば、タミフルが治療に使えなくなるなど、今後の治療に影響する懸念がある。

 同病院の菅谷憲夫小児科部長は「国内では経口薬のタミフルのほか、吸入薬のリレンザ、イナビル、点滴薬のラピアクタの計4種類のインフルエンザ治療薬がある。バランスよく使っていくことが大切だ」と話している。


一昨年の新型H1N1インフルエンザの大流行にあわせて、日本ではそれまでにもまして頻繁にタミフルが使われましたね。

タミフル耐性ウイルス出現の危機が叫ばれながら、若年者や妊婦で重症化して死ぬ率が高いと言う話でしたし、ほんとにばかすか使われました。

結果として、日本での新型インフルエンザ罹患率は他の国と変わらなかったのに、致死率は他の国に比べてものすごく低かったのです。

国民の命を守ると言う点では正解だったと思います。


私は妊婦さんに聞かれたら、積極的に使うように勧めてきました。

そして小学校低学年以下の幼児にも積極的に飲むように勧めてきました。

あるいは合併症があって呼吸機能の弱い人やお年寄りにも聴かれたら勧めたでしょう、聴かれませんでしたけど。


でも、バランスの問題でしょうね。

若くて体力のある学生や、働き盛りのサラリーマンや50歳以下の主婦とかだったら、飲まなくていいんじゃないの、寝て治せば?

そう言いたくなります。

わざわざタミフルで症状抑えて営業に回ってウイルスばらまく必要性はどこにもないのです。


元気な働き盛りの人は、インフルエンザにかかってしまったら神様がお休みをくれたと思って寝て治すように、考えてみてください。

医療機関は要望されれば出さざるを得ませんが、患者の側から、考えてみてください。

耐性ウイルスはいずれ出現しますけど、あなたが寝て治すことで、それを一日でも遅らせることができるかもしれません。  


Posted by norihiro at 21:35Comments(0)感染症

2011年01月14日

インフルエンザワクチンの3つの真実

「ワクチン打ったのにインフルエンザにかかった、どうして?ひどい!医者なんて信用できない!」

たびたび聴かされるのがそう言う言葉、冗談で言ってるのかと思ったら本気のようで。

インフルエンザワクチンがどういうものなのか、皆さんご存じないと見える。

たぶん、こういうニュースの意味もあんまりわからないよね。


インフル患者報告が倍増―12週連続で増加

医療介護CBニュース 1月14日(金)12時37分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110114-00000000-cbn-soci

 全国のインフルエンザ定点医療機関当たりの患者報告数が、1月3-9日の週は5.06で、前週の2.30から倍増したことが14日、国立感染症研究所感染症情報センターのまとめで分かった。患者報告数の増加は12週連続。

 都道府県別では、最多の沖縄が25.90で突出しており、以下は福岡(11.53)、佐賀(11.41)、長崎(9.29)、宮城(9.15)、鹿児島(7.41)などの順=表=。
 警報レベルを超えた保健所地域は前週から2か所増の4か所、注意報レベルのみを超えた保健所地域は24か所増の35か所だった。

 また、昨年11月29日-今年1月2日の5週間に検出が報告されたインフルエンザウイルスは新型が最も多く、55.6%を占めた。このほか、A香港型が40.4%、B型が4.0%だった。


インフルエンザワクチンだけれども、以下の特徴がある。


1.流行するウイルス型の予測がはずれると効果は薄い。

 国立感染研究所などで過去のウイルスの流行パターンを見て、次のシーズンに流行りそうなワクチンの方を決めてしまう。

 ワクチンの製造には5カ月ぐらいかかるのが当たり前だから、当たるかどうかは神のみぞ知る。

 昨年の新型はまだ免疫を持つ人が少ないから今年もはやると言うのは予測されていたけれども、その前にH3N2が流行ることの確信を持っていた研究者はいないはず。


2.注射してから効果が出るまでに2週間はかかる。

 ワクチンというのは打った瞬間からスパッと効く薬ではない。

 打たれた人の免疫系を刺激して、その人の免疫系がインフルエンザワクチン感染に準備することを期待する仕組みだ。

 免疫がその準備を整えるのに2週間はかかる。


3.ワクチンを打っても感染するのは当たり前、ただし、症状が軽くなる(ことが多い)。

 ワクチンを打っても感染を完全に防げるものではない。

 ワクチンを打ったらその病気に感染しても症状が軽くなる、感染しても何の症状もない人も中にはいる、というのが正解。

 「ワクチン打ったのにかかった~、だまされた~!(>_<)」という人、騙されたんじゃなくてあなたが勘違いしていたの。


と、いうことで、受験とか面接とか結婚式とか負けられないゴルフコンペとか、大事な用事が2週間以上先に控えていて、今年のインフルエンザワクチンをまだ打ってないと言う人はぜひ接種を考えてみてください。

ちなみに今年のワクチンは打った後腫れてしばらく痛がる人が多いみたいです。

私は12月半ばに打ちましたし、クリスマスには腫れも引きました。(・_・)ノ☆(*__)  


Posted by norihiro at 19:11Comments(0)感染症

2011年01月14日

ペ・ヨンジュンさんが椎間板ヘルニアの悪化で入院ですと!


何ともかわいそうな話で、撮影中の事故がもとで椎間板ヘルニア、しかも頸部のそれにヨン様がなっていたとは。

かつて「なんちゃってヨン様」とも呼ばれていた私としては他人事ではない。 (・_・)ノ☆(*__)

でもほんと、頸椎部分の椎間板ヘルニアって症状がきつくて大変なんだよね。


ペ・ヨンジュンさんが入院=韓国

時事通信 1月13日(木)16時37分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110113-00000119-jij-int

 【ソウル時事】韓国の聯合ニュースは13日、人気俳優のペ・ヨンジュンさんが頸椎(けいつい)椎間板ヘルニアの悪化のため、4日からソウル市内の病院に入院中だと報じた。
 ペさんは2007年にドラマ「太王四神記」の撮影中、ワイヤでつられた共演俳優が首の上に落ちて椎間板ヘルニアにかかり、最近の厳しい寒さで症状が悪化したという。 


頸椎の椎間板ヘルニアの場合、やられた位置によって症状の出る場所もけっこう大きく違う。

上の方がやられると肋間筋や横隔膜がやられるので呼吸も辛かったりする。

命に関わるので、症状が固定しないうちに手術がbetterって昔聞いた気がする。


C5あたりからだと、呼吸筋はやられないけど、手のしびれが露骨に出て、もちろん首を動かすのもしんどくて無理。

脊髄そのものは圧迫されても痛みはないのが普通らしい。

どうして痛みやしびれがが起こるかというと、脊髄から出ている神経の根っこの部分が圧迫されるからである。



物理的に押しやっているのでどうしようもないのだが、患部の浮腫みが取れれば症状は和らぐこともある。

それを期待して、コルセットなどで固定して、安静にして腫れが引くのをひたすら待つのが基本。


でも、売れっ子俳優さんのように休めない人は辛いよね。

頑張って仕事をやっつけたりするとむくみがとれないどころか、炎症が悪化してしまう。

慢性化するとそれからしばらく身動きとれなくなったりするので、早めの固定と安静がほんとうに重要。


痛みが多少落ち付いてきたら牽引などで保存的治療を図るのだけれども、ともかく初期治療が一番大事です。

慢性化して2年後に悪化するようでは、手術に向かうしかなかったりするですね。
  


Posted by norihiro at 04:28Comments(0)整形外科系のお話し

2011年01月13日

致死率100%の風土病?カラアザールは原虫感染症です。

致死率100%の風土病が猛威をふるっていると言うヤフートピックスのタイトルにびっくりして、

もしかして「エボラ・ザイール」の超強力な毒性の新型ウイルスが出たのかって思ったら、何だ、カラアザールじゃん、ってちょっと拍子抜け。

いえ、怖い病気が出てほしいと思ってるわけじゃないんだけど、「ホットゾーン」とか好んで読んでいたのでそっちかと思った。

カラアザール(内蔵型リーシュマニア症)なら治療薬あったはずでは、とか思ったら・・・。


致死率100%の風土病猛威=独立歓喜の陰で人道危機―スーダン南部

時事通信 1月13日(木)5時49分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110113-00000027-jij-int

 【ジュバ(スーダン南部)時事】スーダンからの独立の是非を問う住民投票が15日まで実施されている南部で、治療しなければ致死率がほぼ100%の風土病、内臓リーシュマニア症(カラアザール)が8年ぶりに大流行している。医療関係者は「住民投票の歓喜の陰で内戦に伴う人道危機は続いている」と警告している。
 カラアザールは、寄生虫を媒介するサシチョウバエを介して感染する熱帯病で、スーダンでは南部ナイル川沿いの州など一部地域で発症。マラリアなどとは異なり、地域的に限定された病気のため研究が不十分で、「顧みられない病気」とも呼ばれる。
 8年前の流行後、免疫のない世代が増えたほか、天候の影響もあって昨年末から大流行。南北内戦で発症地域に十分な医療施設や医師が存在せず、死者数など実態は不明だが、国際緊急医療援助団体「国境なき医師団」が昨年治療した患者数は、前年比8倍超の約2050人に上っている。 


カラアザールは感染すると肝臓や脾臓が腫れあがってお腹がぽっこりでるだけでなく、リーシュマニア症の特徴でもある全身に脈絡なく出現する腫瘤の性で恐ろしい外見になることもある。

「Leishmania Donovani」とじゃ「Kala-azar」でGoogle画像検索して見たらよい。

(検索してみたらかなりショッキングな画像がトップに並んでいたので食事前や食事中に居間で検索するのはやめておきましょう)

サシバエ(蚊と思ったらいい)の一種の消化管内で繁殖する原虫Leishmania Donovani(ドノバン・リーシュマニア)が原因で、これに感染したサシバエに血を吸われるときに感染する。


マラリアで代表される原虫ってのはバクテリアではなくて寄生虫に分類されるのだけど、サイズ的なことから言えばもうほとんど細菌サイズ。

外敵を捕食して消化する白血球の代表であるマクロファージに捕食されて、その中でばんばか増える。

増えて細胞がパンパンになったら破裂して出てくるからそれを他の元気なマクロファージたちが食べる。

げんきなマクロファージに捕食されて、その中でばんばか増えると破裂して・・・

リーシュマニア・ドノバニの感染スタイルは以下のアニメで

http://www.youtube.com/watch?v=8KOV_v65CMw


治療しなければ100%致死、それは確かにその通りで、間違いなく恐ろしい病気だ。

これも私、医学部の寄生虫学講座でも習ったのだが、医学部に入る前に小学校4年生の時に知っていた。

医学研究団の科学者が未開の土地に行って風土病の研究と治療をしながら猛獣調査もする、みたいな少年向けの本があって、それで読んだ。


カラアザールという恐ろしい病気のイメージは10歳の少年の脳裏に強烈に焼き付いた。

「カラアザールの流行している地域にだけは旅行しないようにしよう、日本人でよかった。」

なんてことを思いながら本を読みつつ、牛乳飲みながら、かりんとうをポリポリ食べてたのを今思い出した。←深刻さが薄い(^^ゞ


脱線したから戻すと、カラアザール、早い段階で治療すればほぼ治すことができる。

ドノバン・リーシュマニアに効果的な治療薬はいくつか知られているからである。


ただ、問題は、その治療薬の価格が高いことだ。

もっとも安全でかつ効果的な特効薬は、治療に必要な分を使うと薬剤費だけで2000ドル以上するという。

2000ドル(16万円)以上というのは、日本人からしてみれば、それで命が助かるなら安いものだ、と思うかもしれないけど、流行地の人からすると一生かかっても稼げないかもしれない金額だ。


一方、安価な昔から使われている薬は副作用が強く、毒を以て毒を制す的な薬で、人によっては死ぬこともあるらしい。

(使ったことないので、どんな副作用かは詳しくは知らない、すみません。)

そしてこちらでも薬剤費で5000円はするとのことで、スーダンの地方の貧困家庭では逆立ちしたって出せない金額だろう。


どうしてそんなに薬代が高いのかというと、先進国では流行していない病気だからである。

流行地を訪れる先進国の人などからの小さな需要はあるので作り続けてはいるが、製薬会社としては赤字で奉仕している状態だと思われる。

作ってもそれほど売れない薬(需要はあってもその人たちにお金がない薬)、製薬会社には大量生産して薬価を下げるメリットがないからである。

それで、薬は現地の貧乏な患者に投与されることはない。

助かる命は今でもどんどん失われているのである。


だから、致死率100%なんていうこういう「釣りな」タイトルをつけても、ヤフートピックス、許す。

こういう「無視されている」風土病の存在に注意を喚起して、我々がそれを何とかしたいと思う気持ちになるのはいいことかもしれないから。


リーシュマニアに注意喚起するYoutube動画、最後のあたりにショッキングな患者画像が出るので注意。
http://www.youtube.com/watch?v=q1_sfpau5yo

皮膚リーシュマニア症の画像のスライドショー これは医療関係者以外にはお勧めしない。
http://www.youtube.com/watch?v=pCRW23BPuZI&NR=1


風土病に関する情報と寄付のことなら以下を参照。

 ⇒国境なき医師団 あなたの3000円で100人を救いませんか?

もちろん、他にも寄付する先はいろいろあるけれども、現場に一番近い団体の一つだと思う。
  


Posted by norihiro at 16:04Comments(1)感染症

2011年01月06日

国産エイズ予防ワクチンにすごく期待してます。

エイズのことを初めて知ったのは僕は1983年のこと。

医学部の学生だったけど、授業で知ったのではない。

徹夜マージャン明けで一寝入りして、午後からの病理学は出たい授業だったから頑張って起きるべ、ってことで雑魚寝していた4人がむっくり起きてインスタントラーメンのブランチをかっ込みながら笑っていい友を見ていたときのことだ。

男性同性愛者の患者が、AIDS発症で全身にカポシ肉腫の斑点が出て恐ろしい姿に変わり果てる前と後の画像を見せられた。

眠気が吹っ飛んだ。

あれからもうすぐ28年がたつわけで。。。


国産エイズ予防ワクチン、来年から米で臨床試験

読売新聞 1月6日(木)3時11分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110106-00000019-yom-sci

 国産のエイズ予防ワクチンとしては初めてとなる臨床試験を、国立感染症研究所などが2012年から米国で始める。

 エイズワクチンは世界で開発が進められているが、実用化した製品はまだない。研究チームは動物実験でワクチンの感染予防効果を確認しており、世界初の実用化をめざす。

 臨床試験には、東京大医科学研究所とベンチャー企業「ディナベック」(茨城県つくば市)が参加。非営利組織の国際エイズワクチン推進構想(IAVI)が資金提供する。

 開発したのは、「センダイウイルス」という人間に病気を起こさないウイルスを使ったワクチン。このウイルスに、エイズウイルスのたんぱく質を作る遺伝子を組み込んで、未感染者に注射する。体内で遺伝子からエイズウイルスのたんぱく質が作られると、エイズウイルスが感染した細胞を狙い撃ちする免疫細胞ができ、発症を予防する。


期待している理由の一つはセンダイウイルスの安定性。

様々な実験に使われているセンダイウイルスベクターだが、人間には無害であると言う利点がこれまであまり顧みられてこなかった。

なんせ最初に見つかったのが新生児肺炎の患者サンプルからだから、マウスとラットにしか病気を引き起こさないと言われてもにわかには使う気になれない。

でも、何度も動物実験を繰り返しての今回の臨床試験。

安全性だけでなく、センダイウイルスの継続的で高い発現ベクター能力に大いに期待である。

HIVの変異によるすり抜けが少ない部位に対して長く働くワクチンになれば、医療関係者にとっても心強いワクチンの誕生となるだろう。  


Posted by norihiro at 23:12Comments(2)感染症

2010年12月29日

人類や社会というくくりでは家族の形はなんでもありだろうけど

日本という国はすごく良く整った国で、裏を返せば決まり事を外れると暮らしにくい国でもある。

日本に暮らすには日本型の社会構成、家族構成、常識や倫理観が最優先される。個人の自由はその次、というのが建前。

その封建的な仕組みが日本という国を強くしてきたんだと思う。

そしてそれは狭い国土にひしめいて過ごす上で必要な仕組みでもあり、正しいとか正しくないか論じるべきものではないと思う。

外国もそう。

外国の家族観や倫理概念はその国の歴史の中で出来上がってきたもので、われわれがとやかく言う問題ではない。

とはいうものの、やっぱりこれには驚いた(笑)。


E・ジョンさんと男性パートナーに息子誕生=米で代理母が出産

時事通信 12月29日(水)0時6分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101229-00000001-jij-ent

【ロサンゼルス28日AFP=時事】英人気歌手のエルトン・ジョンさん(63)と男性パートナーのデービッド・ファニッシュさん(48)が、米カリフォルニア州で代理母が出産した男の赤ちゃんの両親になった。USマガジン(電子版)が伝えた。
 赤ちゃんは25日に誕生。体重3500グラムで健康といい、「ザカリー」君と名付けられた。ジョンさんとファニッシュさんは声明で「この特別な瞬間を迎え、幸福と喜びに圧倒された気分。両親になれたことを誇りに思い、幸せを感じている」と表明した。
 ジョンさんとファニッシュさんは12年間の交際を経て2005年に同性婚した。ジョンさんは昨年、訪問先のウクライナの孤児院で出会った生後14カ月の男児を養子に迎えようとしたが、法律によって阻まれていた。
 ジョンさんらに息子が誕生したことについて、友人でモデル・女優のエリザベス・ハーレーさんは、「素敵な息子さんができたデービッドとエルトンを盛大に祝福します。(赤ちゃんを)抱き締めるのが待ち切れないわ」と簡易ブログ「ツイッター」につづった。


代理母の問題はいろんな立場の人のそれぞれの考え方や価値観に照らし合わせると様々なとられ方をする。

他人の赤ちゃんを産んであげるなんて、生物学的におかしいと感じる人たちの気持ちはわからないでもない。


でも、代理母を生物学的におかしいと考えるのであれば、輸血で命を救うこともまたおかしいと考えるべき。

さらに言えば、薬草を煎じて飲むなどの自然療法以外の医療もすべて生物学的におかしいと考えるべきで。

もっともっと生物学的に言えば、薬草を煎じる行為自体、人工的なものだから否定されるべきである。


極論、生物として云々をあげ連ねるのであれば、その人たちは文明を捨ててチンパンジーと同等の生活をするべきじゃないかと。

そこまでの覚悟があるとは思えず。


・・・そう言う考え方の私にしても、赤ちゃんが男同士の夫婦の子どもとして生まれてくると言うのには抵抗感があるな。

養子縁組なら問題ないと思うんだけど、それが拒否されたから代理母に産んでもらうって、なんか、変。

この子の両親としての適性がないとは思わないし、幸せになれるだろうとは思うけどね。


いつか、本当の「生物学的な両親(子宮ではなくて、精子と卵子の提供者、つまり遺伝子上の)」のことをこの子が知りたいと思った時に、どう伝えてあげるのだろうか?

匿名であっても、何人で、どの辺に住んでいて、どんな仕事をしていて、みたいなことは知りたいと思うのだけれども、それは知れるシステムなんだろうか??
  


Posted by norihiro at 13:46Comments(0)医療と倫理

2010年12月28日

妊娠高血圧(子癇前症)の実験モデル作成と治療の報告

妊娠高血圧(PIH; Pregnancy Induced Hypertension)の実験モデル作成と治療の報告


妊娠高血圧とは妊娠中毒症と呼ばれていたもので、妊娠中に血圧が正常域を超えて高くなってしまうケースを指します。

収縮期と拡張期の血圧が140/90mmHgを超えるものを高血圧と考えます。

かつての妊娠中毒症の診断基準に使われていたのは「浮腫、タンパク尿、高血圧」だったのですが、その後、高血圧がこの病気の本態であり、それをコントロールすることこそが重要であると考えられるようになりました。

それで妊娠中毒症という呼び方は最近はほとんどしません。


妊娠高血圧と診断される妊婦さんは現在の日本でも数%いらっしゃいますが、かつてはもっとたくさんありました。

それが生活レベルが上昇し、生活習慣が改善するとともに妊娠中毒症は数が減ってきました。

塩分摂取量が影響するだけでなく、妊婦の栄養状態がこの疾患群の発症に大きく影響することがこれらのことから明らかでした。


妊娠高血圧症候群を治療=マウスで実験、スタチン投与―大阪大

時事通信 12月28日(火)5時45分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101228-00000010-jij-soci

 妊娠高血圧症候群のマウスにスタチンを投与し病状を改善させることに、大阪大の伊川正人准教授らの研究チームが成功した。妊婦へのスタチン投与は危険性が指摘されており、そのままは使えないが、同准教授は「安全な新薬開発につながる可能性がある」としている。
 成果は28日、米科学アカデミー紀要電子版に掲載された。
 伊川准教授によると、妊娠高血圧症候群は妊婦の7~10%に発症し、胎盤形成の異常につながる。重症化すると胎児の成長が妨げられ、肝機能障害などを併発する。


妊娠高血圧は子癇前症(Preeclampsia)とも呼ばれます。

子癇というのは出産前後にものすごい高血圧とともに神経症状(意識消失やけいれん、脳出血などによる)を呈する疾患のことです。

これはほとんどの場合、妊娠高血圧のある妊婦さんで発症することから、妊娠高血圧は命に関わる疾患の予兆として今でも非常に注意されるべき症候群なのです。


また、妊娠時高血圧の患者さんでは胎盤の発育が悪く、胎児のサイズも非常に小さくなることが多いのが特徴です。

このため、お母さん自身の高血圧がコントロールできなくなって早めの帝王切開をした後で、赤ちゃんが未熟地治療施設から出てくるのにはけっこう時間がかかります。

(と言っても小さいだけで合併症はないことが多いのですけどね)


このような妊娠高血圧、子癇前症がどうして起こるのか、塩分とか栄養状態が関係することはわかっても、この病気が起こるメカニズムは分子レベル、細胞レベルではよくわかりませんでした。

それは適切な実験動物モデルがなかったからです。

このスタチン投与実験がうまく行ったのも、妊娠高血圧の実験モデルをうまく作りだせたことが全てと言っていいのではないかと思います。


時事通信の記事の続き

 実験では、胚を取り出し胎盤の血管作製を阻害する遺伝子を導入して、再び体内に戻す方法で作った妊娠高血圧症候群のマウスを使用。正常なマウスと比較したところ、血圧は上下とも20ずつ上がり、妊娠20日目に出産した子供の体重は通常より15%軽くなった。
 次に妊娠7日目と10日目の高血圧症候群マウスにそれぞれ1日5マイクログラムのスタチンを投与。出産まで投与し続けると、血圧は正常値に回復し、生まれた子供の体重も正常なマウスと同じだったという。 


このニュースだけを見ても、具体的に何がどう働いてスタチンが妊娠高血圧の治療に有用なのかがさっぱりわかりません。

そこで、米科学アカデミー紀要電子版の該当ページを見てみました。

以下に論文タイトルや著者(一部)とAbstractをコピペします。


Pravastatin induces placental growth factor (PGF) and ameliorates preeclampsia in a mouse model

1. Keiichi Kumasawa, 2. Masahito Ikawaa,・・・9. Masaru Okabe

Abstract

Preeclampsia is a relatively common pregnancy-related disorder. Both maternal and fetal lives will be endangered if it proceeds unabated. Recently, the placenta-derived anti-angiogenic factors, such as soluble fms-like tyrosine kinase-1 (sFLT1) and soluble endoglin (sENG), have attracted attention in the progression of preeclampsia. Here, we established a unique experimental model to test the role of sFLT1 in preeclampsia using a lentiviral vector-mediated placenta-specific expression system. The model mice showed hypertension and proteinuria during pregnancy, and the symptoms regressed after parturition. Intrauterine growth restriction was also observed. We further showed that pravastatin induced the VEGF-like angiogenic factor placental growth factor (PGF) and ameliorated the symptoms. We conclude that our experimental preeclamptic murine model phenocopies the human case, and the model identifies low-dose statins and PGF as candidates for preeclampsia treatment.


日本語でこのAbstarctを簡単に翻訳すると以下の通りです。

タイトル

プラバスタチンはPGF(胎盤成長因子)発現を誘導し、マウスモデルでの子癇前症を改善する。

要約

子癇前症は比較的よくある妊娠合併症で、放置すれば妊婦と胎児に重大な影響を及ぼします。
最近の研究では、soluble fms-like tyrosine kinase-1 (sFLT1) や soluble endoglin (sENG)のような血管形成阻害因子の発現が子癇前症発症と関連することが示唆されています。
このことから、マウス授精胚にレンチウイルスを使ってsFLT1を胎盤特異的に発現させたところ、胎児発育の低下と血圧上昇、タンパク尿を伴う妊娠高血圧モデルが作製できました。

このモデルに妊娠中にプラバスタチンを投与したところ、妊娠高血圧が予防できて、胎児発育も改善しました。
これはプラバスタチンによりplacental growth factor (PGF)が発現誘導されたためであることを示します。
この実験モデルは子癇前症の良い実験モデルであり、プラバスタチンとPGFが子癇前症の治療薬の候補となることを示しています。


・・・ともかく、この実験モデルができたことが大きいですね。

これをLentivirusとかではなくて薬剤誘導で胎盤特異的に発現するトランスジェニックモデルにするなどして、何とかして安定供給できるようにしてもらえると嬉しいですね。

そうなればさらにいろいろ実験し易くなるでしょう。


・・・論文本体も読んでみました。

授精胚にLentivirusを感染させることでのみ、胎盤特異的に遺伝子発現を誘導できる、ということのようです。

そこが画期的だったのですね、そして胎盤特異的なプロモーターというのはまだ誰も手にできていないようです。

ニュース記事だけでも、Abstractだけでもダメですね、事実は細部まで確認しなくては。。。  


Posted by norihiro at 15:42Comments(0)科学研究を医療に

2010年12月28日

子宮頸がんワクチンの副作用で失神?えええ~!?

子宮頸がんワクチンの副作用で失神のタイトルにびっくり。

読んでみてその内容にまたびっくりした。

あたかも子宮頸がんワクチンそのものに重篤な副作用があるかのようなこの記事タイトルなのだか、中身は違う。

読売新聞としては人目を引いて売り上げを上げたいのかもしれないが、とんでもない言いがかりともとれる。

だって、この記事、よく読めば筋肉注射に慣れていない現代の小学六年生が痛みにへこたれてるだけの話であって、子宮頸がんワクチンに特異的な問題ではないのだから。


子宮頸がんワクチンで副作用、失神多発

読売新聞 12月28日(火)3時2分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101227-00001223-yom-sci

 子宮頸(けい)がんワクチンの副作用として、気を失う例の多いことが、厚生労働省の調査でわかった。

 接種者の大半が思春期の女子で、このワクチン特有の強い痛みにショックを受け、自律神経のバランスが崩れるのが原因とみられる。転倒して負傷した例もあるという。同省は「痛みを知ったうえで接種を受け、30分程度は医療機関にとどまって様子を見るなど、注意してほしい」と呼びかけている。

 子宮頸がんワクチンは、肩近くの筋肉に注射するため、皮下注射をする他の感染症の予防接種より痛みが強い。昨年12月以降、推計40万人が接種を受けたが、10月末現在の副作用の報告は81人。最も多いのが失神・意識消失の21件で、失神寸前の状態になった例も2件あった。その他は発熱(11件)、注射した部分の痛み(9件)、頭痛(7件)などだった。


昭和の時代なら予防接種は筋肉注射が当たり前であったし、現代でも日本以外の多くの国では筋肉注射が当たり前である。

それが日本では皮下注射になったのは、痛くないことと、まれに起こる副作用の筋委縮に対してマスコミが反筋肉注射のアジテーションを行ったためである。

皮下注射よりも筋肉注射の方が免疫反応は強いとわかっているにもかかわらず、日本の医療が予防注射を皮下注射主体に変更したことは諸外国の予防医学者からは冷笑されている。


昭和の時代であれば幼児の頃から筋肉注射は受けていた。

小さな子の方が痛みからくる心因性のショックに対しては強いし、経験から痛みへの恐怖も薄れていたはずである。

だが、小学六年生で始めて筋肉注射を受けた今時の女子児童は痛みに慣れていなくてくらくらする。


あいかわらず、新聞は目を引くための記事を書いて医療を崩壊させていないか?

せっかく、高い確率で女性を子宮頸がんの恐怖から救ってくれる可能性のある子宮頸がんワクチンの普及が、こんな恣意的な内容を見誤った記事で妨げられることを危惧する。
  


Posted by norihiro at 08:55Comments(2)感染症

2010年12月27日

インフルエンザの流行が本格化、どう考えるべきか。

インフルエンザの流行が本格化してきました。(2010年12月末の情報です)


今週は2010年の最後の週ですね。

今日、27日から休みの職場も多いと思いますし、先週後半から残務整理に明け暮れているところもあるでしょう。

いずれにせよ、急激に寒くなったなかでのお仕事に家庭サービスにお疲れ様でございます。


今年は一年を通じて気候の変動が激しい年でしたね。

今月も18度前後と11月上旬のような暖かさと10度以下という1月下旬のような寒さとの間で大きく気候が揺れて、対象を崩している人が多いと思います。

かく言う私も頭痛と鼻水を抱えながらの通勤で、ウイルスをばらまきながら申し訳ないと思いつつ、満員電車に揺られています。


この危険な状況の中、インフルエンザの定点観測結果から、流行が本格化してきたことがわかりました。


インフルエンザ流行入り 新型→妊婦・子供 季節性→高齢者

産経新聞 12月27日(月)7時57分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101227-00000107-san-soci

 ■「すべての年齢層で注意を」

 今季のインフルエンザが流行入りを迎えた。昨シーズンの流行は新型一色だったが、今季は季節性と新型が混在した形で流行しそうだ。新型では妊婦や子供の重症化に注意が必要だったが、季節性インフルでは高齢者にハイリスクとなる。厚労省も「今年は、すべての年齢層で注意が必要」と呼びかけている。

 ▼集団感染に警鐘

 国立感染症研究所によると、現在、最も流行しているのが季節性インフルの「A香港型」というタイプ。これまで検出された63%がこのウイルスだ。

 北里大医学部の和田耕治講師は「A香港型は高齢者で重症化することが多く、高齢者施設などは集団感染に注意が必要」と話す。11月にも秋田県の病院で50人以上が集団感染し8人が死亡する事案が発生している。このまま「A香港型」が流行すれば、平成18年以来4年ぶりの本格的な流行となり、厚労省は「大きな流行になる可能性もある」と注意を呼びかける。

 参考リンク

 ⇒インフルエンザの知識とインフルエンザへの対処


 ▼従来にない特徴

 一方、昨シーズン流行した新型インフルにも依然、注意は必要だ。毒性こそ低かったが、子供が感染後に肺炎や脳症を発症し、救急搬送されるケースが多発。海外では妊婦の死亡例が相次ぐなど、従来の季節性にはみられない特徴を持っていた。

 現在検出されている34%が新型で、国立感染症研究所感染症情報センターの安井良則主任研究官は「診察では『A香港型』か新型かまでは識別できない。家に帰ってから、容体が急変するようなことがあったらすぐに医療機関に連れていくことが大切」と話す。

参考リンク

 ⇒新型インフルエンザの知識と対策



つまり、同じインフルエンザの感染と言っても、タイプが異なるものが二種類流行っているので、それぞれに対応して、別の病気と考えて対処する必要があると言うことです。

A香港型に関して言えば、去年を除いてほぼ毎年のように流行するウイルスなので、多くの人がある程度機能する免疫を持っているものです。

でも、高齢者が危険なのは、免疫機能が落ちていることと、身体の予備能(HP値と思ってください)がもともと少ないことが理由です。

A香港型に感染した予備能の少ない人が命を落とす、これは毎年のことなので、毎年気配りが必要です。

(むしろ新型ばっかりだった昨年など、高齢者にとってはよい年だったかもしれません。)


新型と妊婦の関係については、日本はあまり当てはまらないんですが、これはタミフルやリレンザの普及率がものすごく高いことと関係すると思います。

日本人はすぐに病院に行ってそれらの薬の処方を希望していましたからね。


タミフルの使い過ぎで、耐性ウイルスが日本から出るんじゃないかと諸外国から危惧されていましたが、タミフル耐性ウイルスが出現したのは北部ヨーロッパからでした。

なかなか理屈通りには進まないからこそ伝染病は広がるのかも知れませんが、奇妙なことでした。

でも、やはり耐性ウイルスの出現は恐れるべきことですが・・・


 ▼新薬も登場

 対策として最も有効なのがワクチンだ。昨年は接種時期にワクチン供給が間に合わず混乱したが、今年は約5800万人分が用意されており、厚労省も「十分な量が確保できた」としている。今季のワクチンには、季節性と新型の両タイプが入っており、1回の接種で両方が予防できる。

 明るい話題は、新たな治療薬の登場だ。これまで「タミフル」と「リレンザ」という2種類しかなかったが、今年に入って塩野義製薬の「ラピアクタ」と第一三共の「イナビル」が承認され、使えるようになった。

 「タミフル」や「リレンザ」は1日2回、5日間服用する必要があったが、今年登場した2つの薬は1回の投薬で効果が得られる。特に「ラピアクタ」は点滴で投与するタイプで、薬が飲み込めない高齢者などにも使える。

 厚労省感染症情報管理室の中嶋建介室長は「ワクチンを早めに接種して、手洗いやうがい、マスクなど基本的な感染症対策を行ってほしい」と呼びかけている。


明るい話題ではありますね。

なんだか抗生剤と耐性細菌のいたちごっこにも似ています。

抗インフルエンザ薬の作用点はどれもけっこう似ていますから、攻勢剤でMRSAやVREのような多剤耐性の強烈なウイルスも出現しないとは限りません。

最強最悪のアシネトバクターの様なものはそう簡単に出てこない・・・と思いたいです。


ともかく、最終的には日ごろから身体を鍛えて摂生に努めて、免疫力と予備能とを高めておくことが重要です。
  


Posted by norihiro at 11:52Comments(0)感染症

2010年12月25日

小児への心臓移植にこわごわ足を進める日本の移植医療


心臓移植の恩恵にあずかるべき先天性小児心臓疾患患者のほとんどが、現実には日本国内での移植を期待できない。

重症化すれば海外での心臓移植を余儀なくされているのが日本の心臓移植の現状だ。

海外では30年以上にわたって移植手術が行われてきたこの分野で、ようやく少しずつその門戸が広がろうとしている。


ニュースの記述内容がどうもわかりにくいが、わかりやすく書くとこうである。

現在、日本で心臓移植手術を許可されているのは9つの病院で、ただし、15歳未満の心臓移植手術が可能なのは東大病院などの全国でたった3つの病院だけとされていた。

その年齢制限を、11歳未満にまで切り下げる。それだけのこと。


つまり、心臓移植可能な施設が9つの施設であることは変更しないが、11歳未満の患者への心臓移植は3つの施設のみ、東大病院、阪大病院、国立循環器病研究センターのみで可能としたわけだ。

患者にとってよいことではある。


11歳以上の心臓移植、全施設で可能に 移植関係学会合同委が発表

産経新聞 12月24日(金)23時2分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101224-00000629-san-soci
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/living/health/478014/

 移植関係学会合同委員会は24日、これまで「15歳未満」への心臓移植が可能としていた東京大病院など3施設の対象年齢を「11歳未満」に引き下げると発表した。15歳以上に心臓移植できる施設は東大病院など3施設を含め計9施設あるが、今後はいずれの施設でも11歳以上の患者への心臓移植が可能になる。

 移植施設をめぐっては、臓器移植法改正にあたって同委員会が15歳未満の心臓移植を3施設に限定。しかし、日本小児循環器学会が「技術的に問題ない」として、年齢設定を引き下げるよう要請していた。


海外の心臓移植手術に比べれば、周回遅れどころか、20年も30年も後塵を拝していた日本の心臓移植。

しかし、日本の心臓移植手術はスタートしたときは世界で30例目となる最先端のスタートを切っている。

1968年8月8日、東大でも阪大でもなく、和田寿郎を主宰とする札幌医科大学胸部外科チームが日本初の心臓移植手術を実施している。

これは世界で30例目となる手術で、日本の外科技術の先進性を世界に示すものになる・・・はずであった。


心臓移植手術に関わった麻酔科医の告発により、和田チームの行動には「移植最優先で患者の命は後回し」としか思えないものがあるとされる。

初めに心臓移植ありきで、ドナーは助かるはずの命を殺されたのではないか?レシピエントも心臓移植ではなくて弁置換術で治ったのではないかと言われる。

もしもそれが事実ならば、二人の青年の命を和田チームが功名心のために奪った殺人罪と言ってもいいのではないかということで、訴えられている。


・・・しかし、基本的には関係者の告発のみで、物的証拠がない。

手術標本が行方不明になった上に入れ変えられていたり、ドナーの死体が問題になる前に火葬に付されていたり、限りなく疑わしい話も出回っているが、真相はやぶの中なのだが、これは大いに疑義を生んだ。

証人として召喚された著名な外科医たちの意見も何を気遣ってか終始、きわめて曖昧であった。

けっきょく、物的証拠がないと言うことで告発された殺人罪、業務上過失致死罪、死体損壊罪のすべてで嫌疑不十分で不起訴となった。


この問題は日本中を揺るがせた。

証拠不十分、証人の意見が対立するということで不問となった押尾守の保護者義務遺棄致死罪の騒ぎどころではない。

このために、心臓に限らず、脳死移植手術そのものが医者の功名心によってなされる不要な医療ではないかという意見が力を増していった。

移植をするべきだという外科医がいても、その医者が有名であればある程、あるいは注目される地位にあればある程、反対する団体から毎日病院前でデモをされて黙りこまざるを得ない状況もあった。

これは日本の外科医に取ってと言うよりも、脳死個体からの臓器移植を必要とする患者たちにとって不幸な世論の流れでしかなかったと私は思う。


1990年代に成立した臓器移植法案によって、脳死個体からの移植が日本でもようやく認められる。

しかし、再び世論に突っ込まれるような問題点が絶対ないようにしたいと言う医療側、行政側の思いから、脳死移植が可能な施設は極めて少ないものに限定された。

その結果の一つが年齢制限でもある。


現実に、15歳未満の移植が必要な先天性心疾患の患者のほとんどが今でも数千万円から数億円というお金を用意してアメリカにわたって心臓移植を受けている。

これはアメリカ国民の患者の移植の機会を減らすことにもつながっていて、国際的な問題にもなっている。


可能であるなら国内での小児の心臓移植手術をもっと適応を広げたい、そう思う医療家や患者の気持ちが及び腰の委員会の腰を押した大事な一歩ではある。

その発表がクリスマスイブになされたと言うのも、狙ってのことなのか偶然なのかは分からないが、小さな祝福と考えていいのではないだろうか。


ちなみに、ローマ法皇が

「人間の死とは脳死であって、心臓死ではない。」

そう認めて明確に宣言したのは、20年以上前の1980年代のことである。
  


Posted by norihiro at 13:38Comments(0)医療と倫理

2010年12月19日

ノロウイルスの感染力の強さはハンパないので・・・

心臓と肺に先天性の疾患のある赤ちゃんが病院内でノロウイルスに感染して死んでしまったそうです。

11か月という幼い命を失ったこの子は可哀そうです、ご冥福をお祈りしたいと思います。


ですが、この報道の仕方、病院が悪いかのように書いてありますけど、ノロウイルスの感染力はハンパないですからねえ。

感染を完全に防ごうと思ったらそれこそ全室個室で完全隔離、職員も毎日検査、お見舞いは全面禁止、家族にノロウイルス疑い(下痢・腹痛)が出た職員は出勤停止。

というぐらいにしないと無理でしょうしねえ。


入院中ノロウイルスに感染、乳児が死亡…宮崎

読売新聞 12月19日(日)21時17分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101219-00000549-yom-soci

 宮崎市は19日、同市の宮崎大医学部付属病院に入院していた宮崎県内の生後11か月の女児がノロウイルスに感染し、死亡したと発表した。

 市や病院によると、女児は心臓と肺に重い疾患があり、6月から入院していた。17日に下痢の症状が見られ、便を検査したところノロウイルスが検出された。同日夜に容体が急変し、18日未明に死亡した。

 病院の小児科病棟では4~19日に入院患者7人と病院スタッフら6人が下痢や吐き気などを訴え、患者3人の便からノロウイルスが検出された。病院は、院内感染の疑いもあるとして、18日から入院の受け入れを停止している。

 病院は「現時点では、ノロウイルスの感染と女児の死亡が直接関係しているかどうかは判断できない」としている。


ノロウイルスの感染力の強さを表現する例としておう吐物からの感染の話があります。

ホテルに泊っている人がノロウイルスに感染してホテルの廊下でおう吐してしまい、ホテルの従業員が急いで片付けに来ましたが、片付けに関わった従業員の多くが感染したのみならず、片付けられた後にその廊下を歩いた宿泊客も感染したそうです。

おう吐物を片付けるときには、できるだけ速やかに片付ける。

そしてそのさい、半径3m以内の人は蒸発した水分に乗ってきたノロウイルスを吸いこんで感染する可能性があります。

ですから完全にマスクして手袋して白衣着て、それを洗うときにも注意が必要。


ほんとに、防ぐのは難しい。

亡くなった方には申し訳ないけど、難しいんです。

もちろん常識的な範囲で最善策は尽くすべきだと思いますけどね。
  


Posted by norihiro at 22:33Comments(0)感染症

2010年12月16日

ES細胞から腸管様の構造ができるのは前からわかってたけど

ES細胞をin vitro(試験管内)で分化させて様々な細胞や臓器を分化誘導して再生医療につなげようと言う研究は1990年ごろからすでに始まっていました。

そんな中で1990年代前半にはあちこちの研究室で、ES細胞を様々な条件で培養していると、間質に取り巻かれた上皮構造ができて、それが蠕動すると言う現象が観察されました。

見た目は見るからに腸管なんだけど、それが神経系の走行を伴わない、筋肉の自律的な運動だと言うところが今一つ使えないところだったんですよね。

現象自体は面白いからたくさんの研究者が魅了されたのですが、再現性のある条件を作りだせず、また、組織構造が腸管とは似ても似つかないと批判されて、けっこうその確立に挫折して行きました。

そんな中で、Natureに載るほどの内容ならきっとすごいのでしょう。


ヒト万能細胞から「腸管」=複雑な立体組織形成―難病解明、再生医療に期待・米病院

時事通信 12月14日(火)16時22分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101214-00000086-jij-soci

 ヒトの万能細胞である胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)を試験管内で培養し、腸管に近い組織を作ったと、米シンシナティ子供病院医療センター(オハイオ州)の研究チームが14日までに、英科学誌ネイチャー電子版に発表した。
 ヒト万能細胞から肝臓や膵臓(すいぞう)などのシート状組織を作った例はあったが、動物の体内に移植するのではなく、体外の試験管で複雑な立体組織を形成したのは画期的。
 潰瘍性大腸炎や赤ちゃんの壊死(えし)性腸炎などの難病メカニズム解明や治療法の開発に役立つ上、将来は患者に移植する再生医療の実現が期待される。飲み薬の腸での吸収を高める技術開発にも使えるという。 


え~っと、試験管内で腸管様の構造が出来上がったとして、それが免疫異常の疾患である潰瘍性大腸炎の解明にどう具体的につながるのかがあまりピンときません。

何か画期的なアイデアをこの記事を書いた記者の方はお持ちなのでしょう。

御教示願いたいものです。
  


Posted by norihiro at 02:11Comments(0)科学研究を医療に

2010年12月10日

受動喫煙で多動性障害?

受動喫煙させるのがよくないことだという嫌煙家の意見を押す報告だ。

私自身も受動喫煙は大嫌いだし、ましてや子供に吸わせる親なんて最低、とは思うものの、このニュースだけ見てみるとなんだかな。

どうも、信頼性に足りるのかどうか疑問の残る研究?見たいな気がする。


子どもの「受動喫煙」、メンタルヘルスに悪影響=英研究

ロイター 12月9日(木)15時36分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101209-00000559-reu-int

 [ニューヨーク 9日 ロイター] 親など周りにいる人がタバコを吸うことで「受動喫煙」にさらされる子どもは、そうでない子どもに比べて精神面で問題が多くなる傾向が、英国で実施された研究で明らかになった。

 ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)のチームは、英国に住む4─8歳の子ども901人を対象に、唾液などから受動喫煙の度合いを調べたほか、子どもの親にアンケートを実施。その結果、平均すると、受動喫煙の量が多い子どもほど、多動性障害や行為障害など精神的な問題を抱える傾向にあることが分かったという。

 研究を主導したUCLのマーク・ヘイマー氏は、今回の研究は、喫煙者の親に対し、禁煙または屋外での喫煙をさらに促す結果になったと指摘した。

 ただ、受動喫煙が子どもの精神面にどのように悪影響を及ぼすのかは明確でないとし、さらなる研究が必要だと述べた。


901人の4歳から8歳の唾液を調べて、その両親にはアンケートを取って調べたと言うことだけど、拝啓因子の整理がほとんどなされてないんじゃないかという危惧を抱くニュースの内容だ。

そもそも、両親にはアンケートとなっているけれども、両親がメンタルな問題をもともと持っているかどうかのスクリーニング話されているのだろうか?

単純に考えれば、イギリスのような嫌煙運動の歴史の長い国では喫煙するような成人は、すでにいろんな問題を抱えている率が高いはず。

どちらかといえば経済的に貧しい人が多くて、どちらかと言えば教養も少ない人が多い。

そういう家庭に育つこと自体が子どものメンタルヘルスに影響を及ぼさないはずがないと思うのだけれども、そのへんはきちんとコントロールが取られているのだろうか?

さらに、多動性障害や行為障害には遺伝的な素因もある程度影響するわけで、そこのところ、そう言う素因を持つ親が喫煙者になる可能性自体高いと言うことはないのだろうか?(知らないけど)

その辺、このニュースだけではさっぱり分からない。

かなり恣意的にネタを拾ってきて喫煙批判を展開しているような気がする。


もっかい書くけど、私自身は嫌煙家の一人です。

でも、非科学的で感情的な嫌煙運動はしたくないです。  


Posted by norihiro at 01:06Comments(0)メンタル関連のお話