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Posted by だてBLOG運営事務局 at

2010年12月28日

妊娠高血圧(子癇前症)の実験モデル作成と治療の報告

妊娠高血圧(PIH; Pregnancy Induced Hypertension)の実験モデル作成と治療の報告


妊娠高血圧とは妊娠中毒症と呼ばれていたもので、妊娠中に血圧が正常域を超えて高くなってしまうケースを指します。

収縮期と拡張期の血圧が140/90mmHgを超えるものを高血圧と考えます。

かつての妊娠中毒症の診断基準に使われていたのは「浮腫、タンパク尿、高血圧」だったのですが、その後、高血圧がこの病気の本態であり、それをコントロールすることこそが重要であると考えられるようになりました。

それで妊娠中毒症という呼び方は最近はほとんどしません。


妊娠高血圧と診断される妊婦さんは現在の日本でも数%いらっしゃいますが、かつてはもっとたくさんありました。

それが生活レベルが上昇し、生活習慣が改善するとともに妊娠中毒症は数が減ってきました。

塩分摂取量が影響するだけでなく、妊婦の栄養状態がこの疾患群の発症に大きく影響することがこれらのことから明らかでした。


妊娠高血圧症候群を治療=マウスで実験、スタチン投与―大阪大

時事通信 12月28日(火)5時45分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101228-00000010-jij-soci

 妊娠高血圧症候群のマウスにスタチンを投与し病状を改善させることに、大阪大の伊川正人准教授らの研究チームが成功した。妊婦へのスタチン投与は危険性が指摘されており、そのままは使えないが、同准教授は「安全な新薬開発につながる可能性がある」としている。
 成果は28日、米科学アカデミー紀要電子版に掲載された。
 伊川准教授によると、妊娠高血圧症候群は妊婦の7~10%に発症し、胎盤形成の異常につながる。重症化すると胎児の成長が妨げられ、肝機能障害などを併発する。


妊娠高血圧は子癇前症(Preeclampsia)とも呼ばれます。

子癇というのは出産前後にものすごい高血圧とともに神経症状(意識消失やけいれん、脳出血などによる)を呈する疾患のことです。

これはほとんどの場合、妊娠高血圧のある妊婦さんで発症することから、妊娠高血圧は命に関わる疾患の予兆として今でも非常に注意されるべき症候群なのです。


また、妊娠時高血圧の患者さんでは胎盤の発育が悪く、胎児のサイズも非常に小さくなることが多いのが特徴です。

このため、お母さん自身の高血圧がコントロールできなくなって早めの帝王切開をした後で、赤ちゃんが未熟地治療施設から出てくるのにはけっこう時間がかかります。

(と言っても小さいだけで合併症はないことが多いのですけどね)


このような妊娠高血圧、子癇前症がどうして起こるのか、塩分とか栄養状態が関係することはわかっても、この病気が起こるメカニズムは分子レベル、細胞レベルではよくわかりませんでした。

それは適切な実験動物モデルがなかったからです。

このスタチン投与実験がうまく行ったのも、妊娠高血圧の実験モデルをうまく作りだせたことが全てと言っていいのではないかと思います。


時事通信の記事の続き

 実験では、胚を取り出し胎盤の血管作製を阻害する遺伝子を導入して、再び体内に戻す方法で作った妊娠高血圧症候群のマウスを使用。正常なマウスと比較したところ、血圧は上下とも20ずつ上がり、妊娠20日目に出産した子供の体重は通常より15%軽くなった。
 次に妊娠7日目と10日目の高血圧症候群マウスにそれぞれ1日5マイクログラムのスタチンを投与。出産まで投与し続けると、血圧は正常値に回復し、生まれた子供の体重も正常なマウスと同じだったという。 


このニュースだけを見ても、具体的に何がどう働いてスタチンが妊娠高血圧の治療に有用なのかがさっぱりわかりません。

そこで、米科学アカデミー紀要電子版の該当ページを見てみました。

以下に論文タイトルや著者(一部)とAbstractをコピペします。


Pravastatin induces placental growth factor (PGF) and ameliorates preeclampsia in a mouse model

1. Keiichi Kumasawa, 2. Masahito Ikawaa,・・・9. Masaru Okabe

Abstract

Preeclampsia is a relatively common pregnancy-related disorder. Both maternal and fetal lives will be endangered if it proceeds unabated. Recently, the placenta-derived anti-angiogenic factors, such as soluble fms-like tyrosine kinase-1 (sFLT1) and soluble endoglin (sENG), have attracted attention in the progression of preeclampsia. Here, we established a unique experimental model to test the role of sFLT1 in preeclampsia using a lentiviral vector-mediated placenta-specific expression system. The model mice showed hypertension and proteinuria during pregnancy, and the symptoms regressed after parturition. Intrauterine growth restriction was also observed. We further showed that pravastatin induced the VEGF-like angiogenic factor placental growth factor (PGF) and ameliorated the symptoms. We conclude that our experimental preeclamptic murine model phenocopies the human case, and the model identifies low-dose statins and PGF as candidates for preeclampsia treatment.


日本語でこのAbstarctを簡単に翻訳すると以下の通りです。

タイトル

プラバスタチンはPGF(胎盤成長因子)発現を誘導し、マウスモデルでの子癇前症を改善する。

要約

子癇前症は比較的よくある妊娠合併症で、放置すれば妊婦と胎児に重大な影響を及ぼします。
最近の研究では、soluble fms-like tyrosine kinase-1 (sFLT1) や soluble endoglin (sENG)のような血管形成阻害因子の発現が子癇前症発症と関連することが示唆されています。
このことから、マウス授精胚にレンチウイルスを使ってsFLT1を胎盤特異的に発現させたところ、胎児発育の低下と血圧上昇、タンパク尿を伴う妊娠高血圧モデルが作製できました。

このモデルに妊娠中にプラバスタチンを投与したところ、妊娠高血圧が予防できて、胎児発育も改善しました。
これはプラバスタチンによりplacental growth factor (PGF)が発現誘導されたためであることを示します。
この実験モデルは子癇前症の良い実験モデルであり、プラバスタチンとPGFが子癇前症の治療薬の候補となることを示しています。


・・・ともかく、この実験モデルができたことが大きいですね。

これをLentivirusとかではなくて薬剤誘導で胎盤特異的に発現するトランスジェニックモデルにするなどして、何とかして安定供給できるようにしてもらえると嬉しいですね。

そうなればさらにいろいろ実験し易くなるでしょう。


・・・論文本体も読んでみました。

授精胚にLentivirusを感染させることでのみ、胎盤特異的に遺伝子発現を誘導できる、ということのようです。

そこが画期的だったのですね、そして胎盤特異的なプロモーターというのはまだ誰も手にできていないようです。

ニュース記事だけでも、Abstractだけでもダメですね、事実は細部まで確認しなくては。。。  


Posted by norihiro at 15:42Comments(0)科学研究を医療に

2010年12月16日

ES細胞から腸管様の構造ができるのは前からわかってたけど

ES細胞をin vitro(試験管内)で分化させて様々な細胞や臓器を分化誘導して再生医療につなげようと言う研究は1990年ごろからすでに始まっていました。

そんな中で1990年代前半にはあちこちの研究室で、ES細胞を様々な条件で培養していると、間質に取り巻かれた上皮構造ができて、それが蠕動すると言う現象が観察されました。

見た目は見るからに腸管なんだけど、それが神経系の走行を伴わない、筋肉の自律的な運動だと言うところが今一つ使えないところだったんですよね。

現象自体は面白いからたくさんの研究者が魅了されたのですが、再現性のある条件を作りだせず、また、組織構造が腸管とは似ても似つかないと批判されて、けっこうその確立に挫折して行きました。

そんな中で、Natureに載るほどの内容ならきっとすごいのでしょう。


ヒト万能細胞から「腸管」=複雑な立体組織形成―難病解明、再生医療に期待・米病院

時事通信 12月14日(火)16時22分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101214-00000086-jij-soci

 ヒトの万能細胞である胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)を試験管内で培養し、腸管に近い組織を作ったと、米シンシナティ子供病院医療センター(オハイオ州)の研究チームが14日までに、英科学誌ネイチャー電子版に発表した。
 ヒト万能細胞から肝臓や膵臓(すいぞう)などのシート状組織を作った例はあったが、動物の体内に移植するのではなく、体外の試験管で複雑な立体組織を形成したのは画期的。
 潰瘍性大腸炎や赤ちゃんの壊死(えし)性腸炎などの難病メカニズム解明や治療法の開発に役立つ上、将来は患者に移植する再生医療の実現が期待される。飲み薬の腸での吸収を高める技術開発にも使えるという。 


え~っと、試験管内で腸管様の構造が出来上がったとして、それが免疫異常の疾患である潰瘍性大腸炎の解明にどう具体的につながるのかがあまりピンときません。

何か画期的なアイデアをこの記事を書いた記者の方はお持ちなのでしょう。

御教示願いたいものです。
  


Posted by norihiro at 02:11Comments(0)科学研究を医療に